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第6話 みまえる

last update Last Updated: 2025-05-15 11:05:52

 ガガーン、ガコン――

 コーン、コーン――

 扉を開ける音が反響するが気にする事はない。ここは個人で借りている倉庫だし、人が住んでるところからはだいぶ離れている。そばに別の倉庫があるが人が出入りしているのを見かけたことはない。

 そろそろアイツに水分と食料を与えておかないとまずい。

「めんどくせぇなぁ」

 コッコッ

 締め切ったまま3日も開けていない思いドアノブに手を伸ばす

「カレンはここにいるんですね?」

 驚いて後ろを振り向く。後ろから入る光に目が慣れてないせいでよく見えてないが、声には聞き覚えがある。しかもそんなに前じゃない。

「もう……やめませんか、都築さん」

「な、なにを言っているのかね? 君は……確か二日前の……」

「藤堂です。藤堂伊織の兄の。まぁ、伊織しか見てなかった、女の子にしか興味のないあなたには名前なんてどうでもいいんでしょうけどね」

 昨日、カレンを後ろに憑けたまま、また事務所へと来ていた。1度用事があって面接をしている妹がいることで訪れる理由はどうとでもなる。

 またここに来る理由、それはもちろん|彼《・》のことについてだ。

「すいませんちょっとお尋ねしますが、もし義妹《いもうと》がこちらにお世話になるとしたらどちらの方が担当になるんですかね?」

「ん~そうだなぁ?状況にもよるけど都築じゃないか?アイツ女の子売り出すことに今は燃えてるからな」

 事務所に居た男性の職員さんが答えてくれた。今までこの事務所に何度かお邪魔してきたけど、会った事の無い人だ。もしかしたら誰かのマネージャーさんなのかもしれない。

「そうですか……ちなみになんですけど、都築さんてこの辺りにお住まいなんですか?」

「いや、確か郊外の工場の息子とかで、ここには毎日通ってるはずだけど?」

 めんどくさそうな顔をしながらも一応は答えてくれた。顔は全くこちらを向かないままでではあるが。「なんで?」とか聞かれた
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